第1回 2026/04/06(月)春の脳内棚おろし、開幕

配信初回。このニュースレターのタイトル「ラジオ構成作家12カ月」を解説します。
古川耕 2026.04.06
誰でも

 ようこそ! 今日からニュースレターを始めるラジオ構成作家でライターの古川耕です。

 職業柄、日々感じたことや触れたものは仕事にフィードバックしてきたのですが、最近それもなかなか追いつかなくなり、さてどうしたものかと思案のすえ、このニュースレターというメディアを始めることにしました。いざ準備を始めてみると、今までほったらかしにしていた自室を片付けているような、なんとも言えない気恥ずかしさと高揚感が湧いてきて、これが楽しい。散らかりきった脳内、春の棚おろし。どうぞお付き合いのほどよろしくお願いします。

 さて、まずはこの「ラジオ構成作家12カ月」というタイトルについて説明させてください。これは1920年代から30年代に活躍したチェコの作家カレル・チャペックのエッセイ『園芸家12カ月』から拝借したもの。出版社によっては『園芸家の12カ月』『園芸家の一年』とも訳されるのですが、個人的にはこのそっけなさ、そして「12か月」でも「12ヶ月」でもない、あくまで全角カタカナで「12カ月」という無骨さが気に入っています。

 この本は、ちょっと偏屈な語り手(チャペック自身)が園芸の苦難やよろこびを1月から順にひと月ずつ語っていくというもの。園芸はいかに手のかかる営みか、そして園芸家はいかに自然に翻弄されるしがない存在か、ぼやきながらも実に楽しそうに綴られています。文章もユーモラスで滋味深く、1ページずつじっくり味わうように繰っていると、最後の数行。それまでの、文字どおり地に足の着いた視線から一転、語り手の視線がふわっと浮き上がり、まるで語り手が超越的な存在になったかのように、こう記します。

「われわれ園芸家は未来に生きているのだ。バラが咲くと、未来はもっときれいに咲くだろうと考える。一〇年たったらこの小さな唐檜(とうひ)が一本の木になるだろう、と。早くこの一〇年がたってくれたら! 五〇年後にはこのシラカンバがどんなになるか、見たい。本物、いちばん肝心のものは、わたしたちの未来にある。新しい年を迎えるごとに高さと美しさがましていく。ありがたいことに、わたしたちはまた一年齢(とし)をとる。」

『園芸家12カ月』(小松太郎訳・中公文庫)

 2021年7月、私が作家をしているTBSラジオの番組『アフター6ジャンクション2』(通称アトロク)に、今やすっかり人気小説家となったNEWSの加藤シゲアキさんが出演されました(シゲアキさんは『アフター6ジャンクション』の前身番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』からのリスナーで、それゆえ番組では「オレたちのシゲ」と呼ばれています)。この時はシゲアキさんの小説『オルタネート』が出たばかりで、放送でもこの作品の話題で盛り上がりました。

 その夜、御礼をかねて本作の感想をメールで伝えたのですが、実はその中で『園芸家12カ月』を引き合いに出したのです。

 『オルタネート』は、高校生専用のマッチングアプリ「オルタネート」を使う三人の高校生たちの葛藤や成長を瑞々しく描いた青春小説。その目線はあくまで高校生たちに寄り添いながら、ラスト数行で突如俯瞰の視点になり、登場人物たちを優しく見守るような眼差しとなって締めくくられるのです。ここには確かに、『園芸家12カ月』のラストと同種の感動がありました。

 シゲからは、すぐに返事が届きました。

『オルタネート』のラストは、単行本化にあたって連載時から悩みに悩んで変えた部分だった。人称と視点が唐突に切り替わるため、面食らってしまう人もいるだろうから迷ったが、これしかない、と閃いたので押し通した。個人的にも思い入れのあるラストだったので、気に入ってもらえて大変嬉しい──と。

 そして今年の3月。アトロクに作家でタレントのいとうせいこうさんが出演されました。いとうさんは、趣味のベランダ園芸について綴った単行本『日々是植物』を出版したばかり。チャペックに憧れて園芸について書くようになったといういとうさんは、放送の中で、ナチスを苛烈に批判していたチャペックだが、『園芸家12カ月』の中ではひと言も政治のことを書いていない、それはわざとだと思う、ヒトラーのことを完璧に無視して自分の庭だけを書き切っている、そこが素晴らしいんだ!と力説されていました(より詳しく知りたい人は『日々是植物』をぜひ読んでください)。いとうさんの目の前でその話を聞きながら、私はまたしてもあのラスト数行のことを思い出していました。

『オルタネート』、『日々是植物』、そして『園芸家12カ月』。まったく異なる三冊が、自分の中で一本の線上に重なり合う。『園芸家12カ月』、久しぶりに読み返したいなぁ……と思っていた矢先、このニュースレターの話を頂きました。このタイトルを思いつくのに、そう時間はかかりませんでした。

 ひとつの出来事が、まったくべつの出来事と、脳内でパチン!と繋がる。そのパチン!を逃さず両手でギュッとつかみ取るのが、自分の仕事だと思っています。

 ラジオ構成作家の12カ月。まずは来年の春まで、よろしくお願いします。よかったら感想を呟いたり送ったりしてくださいね。

「自然が休養をする、とわたしたちは言う。そのじつ、自然は死にもの狂いで突貫しているのだ。ただ、自然は、店をしめて鎧戸(よろいど)をおろしただけなのだ。しかし、そのなかでは、新たに仕入れた商品の荷をほどいて、抽斗(ひきだし)ははちきれそうにいっぱいになっている。これこそほんとうの春だ。いまのうちに支度をしておかないと、春になっても支度はできない。未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。」

『園芸家12カ月』(小松太郎訳・中公文庫)

 追伸。今回の紹介にあたり、念のため加藤シゲアキさんに許可をお願いするメールを出したところ、すぐさま快諾の返事を頂きました。お忙しいだろうに……いい人! さすがオレたちのシゲ! また番組にお招きしたいなぁ。

【今週見たモノ触れたモノ】

◆3月31日(火)映画『イマジナリーライン』@大宮OttO

 東京藝術大学大学院の卒業制作として撮られた坂本憲翔監督の長編デビュー作。今年1月にもユーロスペースで公開されていたがなかなか時間が合わず、今回どうにか一週間限定の公開に滑り込むことができた。

 映画学校を卒業した山本文子と親友のモハメド夢。文子の母の散骨にふたりでいった鎌倉旅行で、夢はエチオピアからやってきた難民申請中の母から産まれた難民2世で、仮放免中だったことが判明。警察に拘留され、そのまま入管に収容されてしまう。『マイスモールランド』(2022年/川和田恵真監督)に続く、仮放免中の若者を主人公にした日本映画だが、こちらのほうがより痛切。これが2022年と2026年の難民を巡る社会感情の差にも見え、さらにつらい。ただし映画としてのルックやキャストは、これまた『マイスモールランド』同様、堂々たるもの。主演ふたりの友情にはマジックが起こっているし、夢を演じたLEIYAはスクリーンに映っている間ずっと目が離せないほどの吸引力。機会があればぜひ多くの人に観て欲しい。

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