第5回 2026/05/11(月)ストップモーション・アニメで時間が溶ける

川口SKIPシティで現在開催中の「コマ撮りってなに?展 ストップモーション・アニメーションの秘密」のレポートです
古川耕 2026.05.10
誰でも

今月1日、川口SKIPシティにて現在開催中の「コマ撮りってなに?展 ストップモーション・アニメーションの秘密」の内覧会にお邪魔してきました。

この展示は日本を代表するストップモーション・アニメの作家やスタジオが集まり、それぞれの代表作で実際に使われたパペットやセットをひとつのブースにギュッ!と詰め込んで並べたもの。当該作品の抜粋映像も場内のスクリーンで上映されているため、ストップモーション・アニメならではの「あの映像の“本人”がここに!?」という感動と興奮が存分に味わえる構成になっています。

ほかにも国内ストップモーション・アニメ史の年表パネルや、ストップモーション・アニメ制作に使われるさまざまな素材の紹介映像、パペットの構造模型、実際にコマ撮り体験ができるブースなどもあって盛り沢山。会場自体はそこまで大きくないものの、ブースひとつずつの情報密度がとんでもないため、あっという間に時間が溶け、脳と目が死ぬ。あぶない。これだけ多彩な作家とスタジオが一堂に会したのは日本初だそうですが、それもひとえに本展で監修をつとめた伊藤有壱さんの功績と人望のなせるわざでしょう。東京藝術大学教授にして、Eテレ『ニャッキ!』などで知られるアニメーション作家の伊藤さんは、代表作のひとつ『ハーバーテイル』のパペット「レンガくん」(超キュート!)や港町「Y」のセット(赤レンガ倉庫だ!)を本展に提供されています。

この展示は伊藤さんが今年4月7日の『アフター6ジャンクション2』(アトロク)で紹介して以来ずっと気になっていて、内覧会に誘ってくださったのも伊藤さんでした。最近ではすっかり「アトロクでストップモーション・アニメを紹介してくれる人」としてお世話になってますが、私と伊藤さんとの出会いは1990年代末まで遡ります。

当時、毎日中学生新聞でアニメーションのコラムを担当していた私は、ストップモーション・アニメへの興味が高じて『ニャッキ!』の撮影現場を取材させて頂きました。右も左も分からぬ当時の私に、NHKのスタジオで今と変わらぬソフトな物腰で丁寧にアニメーションの作り方をレクチャーしてくださったのが伊藤さんでした。余談ですが、この連載は気になる作品やテーマがあったら勝手に取材してきていいよ~、という緩いもので、当時たまたま手に入れた『流れ星ビバップ!(仮)』の企画書、つまり現『カウボーイビバップ』についていち早く紹介記事を書かせてもらったのもこの連載でした。後日その記事を持って『Newtype』編集部に持ち込みに行き、そこから担当ライターとして『ビバップ』の記事やムックを作るようになって……というのはまた別のお話。ともあれ、伊藤有壱さんにしろ『ビバップ』の渡辺信一郎監督にしろ、今に繋がるご縁が生まれた実り多き連載でした。

閑話休題。この「コマ撮りってなに?展」で個人的にグッときたポイントをいくつか紹介します。

まず入口すぐ入ったところで、日本ストップモーション・アニメ界の二大巨匠によるパペット、岡本忠成の『おこんじょうるり』のおばあちゃんときつねの「おこん」、川本喜八郎『死者の書』の郎女がお出迎え。前者はまんがチックでユーモラス、後者は頭身も衣装もリアル寄りでエレガント。好対照、で、どっちも最高。特に川本さんのパペットは渋谷ヒカリエの川本喜八郎人形ギャラリーでも見られるものの(素晴らしい施設です)、こうして他の作家のパペットと比べると、よりその凜とした佇まいが際立ちます。

会場内のブースでは、合田経郞監督の『こまねこ』や見里朝希監督の出世作『マイリトルゴート』といった“スター”たちがずらり。八代健志監督による『ごん GON, THE LITTLE FOX』の繊細な造形物(虫や魚、流木など)は、これこそまさに枯淡の境地ってやつでしょうか。こちらも見ながらつい息を潜めてしまいます。マッチを使ったショートアニメを毎朝一本制作している(!)というデザイナー・岡崎智弘さんのブースは、展示自体も作品と同じくスタイリッシュ。岡崎さんの作品は一本2~3秒という超短編ながら、どれも気の効いたアイデアが凝らされまくっていて、本編映像も一見の価値ありです(2023年にクリエイションギャラリーG8で行われた展示も凄い情報量だった)。

お初の中では、『Blink in the Desert』が鮮烈だった副島しのぶさんによる『私の横たわる内臓』のセットと映像が見られて良かった。グロテスクでいて静謐、かつリリカルで、いつか本編のフルバージョンも見たいものです。また、村田朋泰さんの『家族デッキ』のノスタルジックな理容店のセットとパペット、その密度と味わいも素晴らしかった。作り込みがえげつない。つい呆けたように眺めてしまいました。

カーテンで仕切られた空間に置かれた井上仁行さんの立体ゾートロープも必見。ウェディングケーキのような段差のついたセットに、サンタクロースやトナカイ、ソリなどのパペットがぐるりと並び、それが台ごと回転してストロボフラッシュを当てることで、目の前にアニメーションが忽然と「出現」する(としか言いようがない)。それだけでも十分マジカルなのに、下の段から上の段へとストーリーめいたものも繋がっていて……というのも楽しく、これまた呆けたように眺めてしまいました。

ストップモーション・アニメを見ていていつも思うのは、実写映像や通常の2Dアニメと異なり、物語を楽しみながらも、常に「これは作り物である」ということを強く意識させられ続けること。素材が粘土なら、表面に残った指先の指紋や微細な凹凸から。フェルトのパペットであれば、表面の毛羽立ちや僅かなくたびれ具合から。それらは自身を「人の手によって命を吹き込まれた造形物」であると声高に主張し続け、しかし、だからと言ってそれが物語への没入を妨げることはない。むしろ、「作り物なのにちゃんとそこに“生きて”いる」という感動を連れてきさえする。時に、実写映像より感情や事象の本質を純粋に抽出してみせるアニメーションの力と本質。すぐれたストップモーション・アニメを見るたび、この二重露光のような感覚にクラクラし、時間が過ぎるのをつい忘れてしまうのです。

場所:埼玉県川口SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ミュージアム
日時:9月27日まで。月曜休館(ただし月曜祝日の場合は翌平日)
   9:30~17:00(入場は16:30まで)
入場料:大人520円 小中学生260円 未就学児無料。期間中にはワークショップもあり
アクセス:JR京浜東北線・川口駅 もしくは西川口駅からバスでおよそ10分
     埼玉高速鉄道の鳩ヶ谷駅から10分ぐらい。遠くてすまんやで

SIPシティ彩の国ビジュアルプラザは、事業主にNHKが入っているためか常設展も気合いが入ってる。映画の原理や撮影技術、アニメーションやVFXのハウツーを機材を操作しながら学べる設備も多く、映画ファン向けに言えば「アトラクション版・国立映画アーカイブ」。また、白石和彌、石川慶、中野量太、上田慎一郎、片山慎三といった監督たちを紹介してきた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」を開催していたり(今年からリニューアルされるそうですが)、 格安で映画を上映しているホールがあったりと(6月21日まで休館中)、映画ファンなら一度は訪れる価値アリです。欠点は、周囲に休憩できるカフェやレストランがなく、施設内の飲食店はラーメン屋か居酒屋しかないこと(ラーメンは普通に美味しいです)。

おまけ:内覧会ではトップモーション時代劇SFアクション『HIDARI』の川村真司監督とも久々にお会いしました(今回『HIDARI』の展示はナシ)。世間話の流れついでに『HIDARI』の進行状況を尋ねると、今月12日から開催される第79回カンヌ映画祭アヌシー・アニメーションショーケースで、『HIDARI』に関するある新情報が発表されるとのこと。その中身をオフレコで教えてもらいましたが……思わず大きな声を上げてちゃいまいた。最高のニュース!(※匂わせの許可は得てます) 震えて待て!

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